神戸地方裁判所伊丹支部 昭和40年(ワ)12号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、原告先代Aが訴外Bから買戻により取得した本件不動産をAから贈与を受けて取得した旨主張し、被告に対しこれが原告の所有に属することの確認および原告への返還を請求しているので、この点について職権をもつて判断する。
<証拠>によれば、原告先代は、旧事件第一審(神戸地方裁判所昭和三三年(ワ)第四〇号売買無効確認等請求事件)において「本件不動産はもとAの所有であつたところ、これを訴外Bに対し買戻の特約付で売渡し所有権移転登記を経由したのち、右特約に従つて昭和二年三月二六日Bから買戻し再び所有権を取得したのにかかわらず、Bにおいて同月二八日付で被告先代Cに所有権移転登記をし、その後C死亡により昭和一五年一〇月二五日付被告が相続登記をしている。」旨主張し、被告を相手方とし、本件不動産がAの所有であることの確認を請求したが、請求棄却の判決を受け、Aの控訴申立により大阪高等裁判所昭和三五年(ネ)第一、三一五号事件として控訴係属中にAが死亡し、原告および訴外Dにおいて、Aの相続人として、右訴訟を受継し、本件不動産が原告およびDの所有であることの確認を請求したのであるが、右請求が失当であるとし控訴棄却の判決が確定したこと。原告は、旧事件控訴審において右訴訟に参加し(大阪高等裁判所昭和三六年(ネ)第八三〇号事件)、本件不動産を昭和一一年三月二八日付原告先代Aから贈与を受けて所有権を取得した旨主張し、被告に対し損害賠償等を請求したが、所有権確認の請求をしないまま、右の参加請求棄却の判決を受け、右判決は確定したこと。右確定判決において控訴棄却および参加請求棄却をした理由として、右判決は、「証拠によれば本件不動産を原告先代Aが訴外Bから買戻したのではなく、Bから被告先代Cに売渡されたものであることが認められるとし、Aの所有権取得が認められない以上、これを前提とする原告の請求もすべて失当である。」と判示していること。以上の各事実が認められる。
右認定事実によれば、当事者間の前訴判決において、原告と訴外Dの本件不動産に対する共同所有権が存在しない旨確定しているから前訴判決の既判力により、原告は自己の共有持分につき、前訴判決の認定と抵触する主張が許されず、この部分の確認請求は理由がなく失当であることは明らかである。
ところで、かように原告の共有権の存在が前訴判決によつて否定された場合には、前訴において原告が、一個の不動産所有権の一部請求である旨を留保していないかぎり、後訴において共同所有ではなく単独所有である旨主張して残りの共有持分が自己に属する旨の確認を請求することも、やはり前訴判決の既判力に抵触して許されないものと解すべきである。
これを本件についてみるに、原告が前訴において一部請求(共有持分は、それ自体一個の請求として特定するが、原告の主張に即して判断すればやはり一部請求である。)である旨の留保をしていないことは、前示認定事実に照らし明らかであるから、前訴判決の既判力標準時以後の取得事由を主張していない本件では、本件不動産所有権全体が、原告の所有であると主張することもまたできないものと解すべく、原告が本件不動産の所有権を有することを前提として、本件不動産所有権の確認とその返還を求める本件請求は、理由がなく失当として棄却を免れない。
二、原告は、旧事件において、原告先代Aが死亡したため、訴訟を承継した者に過ぎず、原告固有の資格で旧事件の独立当事者になつたものでないから旧事件の既判力は本訴に及ばないと主張している。
右主張は、結局原告の前訴における控訴人としての地位が、右Aの一般承継人としてAのために訴訟を追行したものにすぎないから、原告固有の取得原因を主張して本件不動産所有権の確認を求める本訴請求は、前訴判決の既判力の拘束を受けないという、趣旨であるとおもわれる。そして、旧事件においては、原告は、Aの一般承継人たる控訴人としての地位と原告固有の取得原因を主張する参加人としての地位において、訴訟を追行したが、本件不動産所有権の確認請求は控訴人としての地位においてのみ訴求したに過ぎないことは、前示認定のとおりである。
しかしながら、当事者の死亡によりその訴訟を受継した承継人といえども、被承継人のためにのみ訴訟を追行しなければならないものではなく、ひとたび受継して訴訟当事者となつたのちは、被承継人と利害の相反する自己固有の取得原因を請求原因の変更もしくは追加の方法によつて主張することも可能であるから、そのために従来の訴訟に参加する必要はなく、従来の訴訟の被告に対し自己の相続分以上の権利主張をするためには請求の拡張をすれば足りるのであつて、請求拡張部分につき、相承継人において自己の主張を争うかぎりにおいて、相承継人と被告との間の訴訟に参加することが可能であり、かつその必要があるものと解すべきである。従つて、原告が前提において先代Aの承継人たる控訴人として本件不動産所有権の一部共有持分のみの相続を主張して敗訴した以上、前訴において主張できたはずの全部の所有権を贈与により取得していたことを、本訴において主張することは、もはや前訴確定判決の既判力により、許されないものと解するのが相当であり、原告の右主張は採用の限りではない。(なお、旧事件において原告が真実先代Aから本件不動産を贈与されたのであれば、これをAから相続により承継した旨の主張はすべきではなかつたし、また右主張に基づいて訴外Dとの共同所有権の確認請求につき本案判決を確定させるべきではなかつたのである。)(安田実)